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東京地方裁判所 昭和44年(行ク)74号 決定

東京都杉並区阿佐ヶ谷北一の三の一一

申立人 水口宏三

右代理人弁護士 田邨正義

同 大橋堅固

同 山川洋一郎

同 西垣道夫

東京都千代田区霞ヶ関一の一一

被申立人 東京都公安委員会

右代表者委員長 阿部賢一

右指定代理人 下稲葉耕吉

〈ほか三名〉

右代理人弁護士 沢田竹治郎

同 山下卯吉

同 竹谷勇四郎

同 溝口節夫

同 武藤正敏

同 金井正人

申立人は、昭和四四年一一月一五日、当裁判所に対し、被申立人を被告として、進路一部変更処分取消しの訴え(昭和四四年(行ウ)第二三七号)を提起し、あわせて処分の効力の停止を求めて本申立に及んだので、当裁判所は被申立人の意見をきいたうえ、次のとおり決定する。

主文

申立人からなされた昭和四四年一一月一六日行進順路を別紙(一)添付図面のとおりとして実施すべき集団示威運動の許可申請について、被申立人が昭和四四年一一月一四日付でなした「赤坂見附より溜池、虎の門をへて土橋にいたる間のコース(別紙(一)添付図面赤線部分)の行進を禁止する」旨の処分の効力はこれを停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一、本件申立ての趣旨および理由は、別紙(一)乃至(三)記載のとおりであり、被申立人の意見は別紙(四)記載のとおりである。

二、疎明によれば、申立人は安保条約反対、平和と民主主義を守る全国実行委員会(略称、反安保実行委員会)の事務局長であるが、反安保実行委員会は、昭和四三年一二月二〇日安保条約に反対する広汎な勢力の結集による共斗組織として一九七〇年を斗いぬく全国的統一行動を展開することを目的として結成された政治組織であること、そして、右委員会に加盟している約一〇万人の所属員は、安保条約破棄沖繩即時無条件全面返還、佐藤首相訪米抗議の趣旨を広く国民に訴えるため、昭和四四年一一月一六日午前一一時より東京都渋谷区代々木公園で集会を開き、同日正午よりA(約四万人)、B(約三万人)、C(約三万人)の三グループに分れて、Aグループは、会場――五輪橋――表参道――青山六丁目左(青山通り)――赤坂見附右――山王下――溜池下左――首相官邸下右――特許庁左――虎の門――新橋――土橋(解散予定)のコースを、Bグループは、会場――神宮橋左――官邸ホーム前――千駄谷小学校左(明治通り)――北参道――新宿四丁目(伊勢丹前)――三光町――新田裏――西大久保一丁目左――鬼王通(解散予定)のコースを、またCグループは、会場――渋谷区役所前――渋谷駅前右――道玄坂――上通り四丁目左――槍ヶ崎左――恵比寿駅前(解散予定)のコースをそれぞれ行進し、午後三時頃解散する予定をもって集団示威運動を行なうことを計画し、申立人はその代表者として昭和四四年一一月一〇日、被申立人に対し、集会、集団行進および集団示威運動に関する条例(昭和二五年七月三日東京都条例第四四号)第一条に基づき、右集会ならびに集団示威運動の許可を申請したところ、被申立人は、同月一四日付をもって、右許可申請にかかる集団示威運動のうちAグループの行進順路中、赤坂見附右より山王下、溜池下左、首相官邸下右、特許庁、虎の門、新橋を統て土橋に至る間につき通過を禁止する旨の条件付許可処分をしたことを認めることができる。そして、憲法の保障する表現の自由の一としての集団示威運動の本質にかんがみると、申立人には、特段の事情がない限り本件処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため、右禁止処分の効力を停止する緊急の必要があるというべきである。

三、被申立人は、本件処分の効力停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすものであるから、許されないと主張する。疎明によれば、前記集団行動の参加団体は、社会党、総評、中立労連等の系列組合を主軸とし、従来平穏な集会、集団示威運動を行なっていた団体とみられるものばかりであり、反安保全国実行委員会も、過去においてしばしば過激な行動に出で公共の安寧秩序を害したことのある反戦青年委員会等の団体としての参加を認めないことを決議したが、当の反戦青年委員会は、中核系全学連、反帝系全学連等の反代々木系学生団体の連合体である全国全共斗との共同斗争を宣言し、機関紙、宣伝ビラ等を通じ、申立人らの計画にかかる本件集会に合流して中央コースで対政府の大斗争を行なう旨宣伝し、また、右参加団体のうち、日本教職員組合、全日本自治団体労働組合、日本都市交通労働組合連合会、全逓信労働組合、電気通信産業労働組合共斗会議、国鉄労働組合、国鉄動力車労働組合、日本私鉄労働組合総連合会、日本放送労働組合、社会主義青年同盟等の組織内には反戦青年委員会に所属する者も含まれていることが認められるので、これらの事実からすれば、本件集会及び集団示威運動が、反戦青年委員会に属する者の行動によって秩序を乱されることがおそれられるかも知れない。しかしながら、一方、疎明によれば、反安保全国実行委員会は、特にこの点に留意し、昭和四四年一一月一五日幹事会を開き、総評本部、日本社会党本部、東京地評その他各団体の書記局全員(約二〇〇名)をしておそくとも当日午前九時から会場警備にあたらせて、加盟組織以外の集団のまぎれ込みを防止し、一般市民よりの参加者に対しては、主催者側の方針を説明して、その統制に従うよう強く要請し、また参加各隊に対してはその責任者を登録させるほか、責任者にこれを表示するタスキを、隊員に腕章、リボン、鉢巻等をそれぞれ着用させて部隊の掌握を容易にするとともに隊員以外の者のまぎれ込みを防止するよう指導すること等を申し合わせたこと、なお、昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デーの集会及び集団示威運動は、その中心勢力として社会党、総評、中立労連に属する団体も参加して行なわれたが、反戦青年委員会の参加を認めず、全体として、整然たるものであったことが認められるから、むしろ反安保実行委員会の主催する本件集団示威運動が、これに参加する団体の自主的統制によりいわゆる静かなデモに終始することを推量することもかたくないのであって、結局、本件全疎明資料を綜合して考察したところでは、本件処分の効力を停止しても、その結果公共の福祉に重大な影響を及ぼすような事情があるとは、とうてい認めがたい。

四、してみれば、申立人の本件申立てはその理由があるから、これを認容することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条に従ったうえ、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曽競 裁判官 山下薫)

〈以下省略〉

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